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暗号資産業界が回復するための方策-今週の暗号資産を読み解く。

暗号資産市場の動向(6/27-7/3)

先週の暗号資産(仮想通貨)市場は、週前半ビットコイン(BTC)が280万円台(ドルベース2万ドル台)でのもみ合いが続いていましたが、6月30日に発表された米国個人消費支出(PCE)5月分でインフレ調整後の数値として今年初の減少となった事や、米国SECがグレースケールの申請していたビットコイン投資信託のETF申請を却下した事などを受け、260万円割れとなりました。(ドルベースで2万ドル割れ)

その後、マイクロストラテジー社が2万ドル台でビットコインを1000万ドル(約1,350億円)買い増しした事やエルサルバドルが80BTCを買い増ししたニュースが流れましたが、7月1日に発表された米国ISM製造業指数6月が53.0と低調なものとなり、またユーロ圏19ヵ国の物価上昇率(速報値)が前年同月比8.6%上昇と1997年以降での過去最高を記録した事などを受け、米国株式市場では金融引き締め懸念が遠のき反発しました。しかし、金融市場全体へのリスクオンまでは至らず、暗号資産市場ではビットコインが週末に向けて260万円割れ(19,000ドル台)でのもみ合いとなりました。

米国の金融市場では、引き続き強さを見せている物価上昇と徐々に進みつつある景気後退懸念の綱引きが始まったと考えられ、マーケット参加者の中では金利上昇ペースの縮小が話題として上ってきています。その状況を映して米国10年債利回りは、週初の3.20%から週末には2.88%まで低下しました。

【今週のイベント】

暗号資産市場の動きは、今週も欧米で発表される経済指標の動向を見ながら上値の重い展開となりそうです。特にビットコインは年初よりドルベースで4万ドル、3万ドル周辺でのもみ合いをしばらく続けた後に、さらに下落が進む状況を繰り返しており、現在の2万ドル周辺での動きが注目されます。

【EU包括規制案】

このような市況の中で、先週6月30日に欧州連合(EU)において暗号資産に対する包括規制案が大筋合意となりました。欧州議会と欧州理事会が合意し2023年にも成立する見通しです。この規制により暗号資産事業者にEU域内で認可を得ることを義務づけるほか、消費者保護の徹底を求めるものとなっています。

加盟27ヵ国による規制で世界初のものとなり、今まで国際的に進んでいなかった規制がEUルールを標準とする可能性があります。今後米国などでの規制検討に影響を与えると思われます。

【コンセンサス2022】

一方、米国では「コンセンサス2022」という業界最大級のカンファレンスが開催され、参加者から暗号資産業界の現状と今後に向けて議論が行われました。以下はその際に取り上げられた発言の一部です。

  • 「今回の下落相場は、暗号資産だけではなく、金融市場全体が影響を及ぼしている」
  • 「過去の歴史でも何度も起こったことで底は近いと考えている。ただ、マクロ的に見ればさらに悪化する可能性もある」
  • 「価格自体は下落しているものの、これまでの弱気相場と比較しても機関投資家やベンチャーキャピタルの関心は衰えていない」
  • 「今後3ヵ月から6ヵ月以内に何をするかが大事になる。FTXは規制当局と良い関係を構築しながら、良いプロダクトを提供していく」
  • 「弱気相場を脱却するカギは、より多くの人々が“長期的な価値”を理解して、人材やテクノロジーに投資することだと思う。私たちは、今後も投資への姿勢を変更するつもりはない」
  • 「大きな変化のひとつは“人材”にある。今回のサイクルでは『Web3.0に参入するべき』と確信を持ったWeb2.0の人材が数多くいる。これは、2018年には考えられなかったこと。今回の相場急落で、応募してくる人材のパイプライン減少も考えていたが、市場が落ち込んだ後でもこの業界に入りたいと希望する人材は多い」

今後について

現在の下落については、暗号資産市場だけでなく金融市場全体の問題と捉える一方、暗号資産業界が今後回復し成長していくための方策として、商品の開発と人材の獲得・育成を行い今の時期を乗り切ろうと考えているようです。

現在の市況は決して良いとは言えませんが、長い目で見た際のことを踏まえ、参入時期を見誤らないよう日々の情報収集をしっかりしていく必要があると言えるでしょう。

Profile ◉倉本 佳光(くらもと よしみつ)
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、山一証券株式会社に入社し金融業界でのキャリアをスタート。
その後メリルリンチ日本証券株式会社、岡三アセットマネジメント株式会社で手腕を発揮。
これまでにリテール及び機関投資家への営業、上場企業の資金調達、IPO、M&Aなどの業務を担当し、現在では「株式会社J-CAM」にて総合的な金融コンサルタントとして活躍している。