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Web3.0が担う『伝統×革新』 書道家 青柳美扇氏 独占インタビュー

生命が宿る文字
和紙の上で墨が躍る

2022年11月21日(月)発売の月刊暗号資産1月号Vol.46より

書道を始められたきっかけお訊かせください。

青柳美扇氏(以下、美扇):書道を始めたのは4歳からです。おばあちゃんの存在が大きかったと思います。おばあちゃんは着物を作る和裁の先生で、書道もやる、お花もやる、茶道もやる。色々な和文化に精通していました。私はおばあちゃん子だったので、そんなおばあちゃんと和室で遊びながら育ちました。中でも書いたらたくさん褒めてもらえる事が嬉しくて、書道が一番好きになり今に至ります。

書道をお仕事にされたいと思ったきっかけは何ですか?

美扇:高校生の時、大学に進学するというタイミングで、好きな書道をもっと勉強したいと思っていました。習字と書道の違いについて、大学で初めて学び、書道パフォーマンスに出会い、書道の魅力にどんどんハマっていきました。その時に『書道大好きやし、書道で生きていきたい!』と強く思いました。

美扇さんが思う書道・習字の違いとは?

美扇:習字は綺麗に美しく、正確に書く。書道はそれを基本としながら、“芸術性を高めて自分の表現をプラスしていく”というモノだと思っています。

NFT・VRアートなど活動の幅を広げられていますが、暗号資産・ブロックチェーンの技術を知ったきっかけを教えてください。

美扇:2、3年ほど前にBitcoinを知りました。当時は少し怪しいとも思いましたが、疑問に思ったことを調べることが好きなので、自分で調べていく過程で、ウォレットを作成してEthereumを買ったことが暗号資産との出会いです。1年半くらい前には、NFTアートを知るきっかけもありました。VRワールドを造っているクリエイターさんをテレビで見たんです。『すごい、私もやりたい!』と思い、すぐSNSで連絡をさせていただきました。『VRチャットでお会いしましょう』と返答をいただいたのですが、私はVRチャットを知らなかったので、始め方を調べてVRヘッドセットを買ってアバターになってお話させていただきました。NFTについてもこの出来事がきっかけで知ることができました。

実物のアートやデジタル上のアート。どちらの活動もされている美扇さんが思うそれぞれの“良さ”とは?

美扇:実物のアートは間近で見ると質感だったり、温かみを感じることが出来ます。例えば1300年前に書かれた“書”であれば、時代を感じることができますし、墨の入り方や”紙の目”まで見える。間近で見ると実物のアート特有の柔らかいものが見えるところが魅力だと感じています。

一方でデジタルアートは、現実世界では表現できなかったことが出来るようになるところがワクワクするし楽しいですね。例えばエフェクトをつけるとか、動きに合わせて文字を光らせることなどが出来ます。同時に世界中に発信できるという良さやブロックチェーンの技術で作者がわかるといった仕組みは実物のアートには無い“良さ”であると思っています。私は、伝統と革新をすごく大事にしています。今の時代に合った形の書道を考えた時にデジタルアートという表現方法もすごく魅力的だと感じました。

今、アーティスト・クリエイターが向き合っている課題は何ですか?

美扇:現実世界で個展を開催すると、概ね1週間ほどの期間で行うことになります。2022年10 月に大阪で6日間行った個展でも、1000人以上のお客様が足を運んでくださって、ご覧いただけたことはすごく嬉しかったです。

ただ現実世界ならではなのですが、お客様に遠方まで足を運んでいただく負担を考えると発表の場がすごく限られてしまう側面も課題としてあります。また、私自身もそうなのですが若手のアーティストさんは、自分の作品を発表する場がまだまだ少ないと感じますね。より多くの皆さんが集まることが出来るようなデジタル上の空間で、個展などが開催できるような機会が増えると、より多くの方々に作品を見ていただける機会を提供させていただけるのかなと思います。

暗号資産やブロックチェーンの技術に今後期待していることをお訊かせください。

美扇:少しずつ知名度が上がっていることは感じています。一方で、まだ触れたことのない人の方が多いとも感じる。入り口はアート・VR、暗号資産と様々ありますが、もっと多くの人に触れてもらってスマートフォンのようにメジャーになれば良いなと思います。

NFT・メタバースの世界に触れた現在の夢をお伺いできますか。

美扇:私は関西出身なのですが、『2025年大阪万博で書道パフォーマンスする』というのが夢なんです。その時にはバーチャル空間の中でも同時にできると、より面白くなると思っています。バーチャル空間のパフォーマンス会場に世界中の人が来て、間近で書道パフォーマンスを体験していただきたいです。

パフォーマンスのための衣装などの準備や、翌日気持ちよく創作に入れるようにどんなに疲れていても必ず道具を綺麗に磨いて片付けるなど、より良いモノを造るこだわりを随所に感じますが、「青柳美扇にとっての書道」とはなんですか?

美扇:小さい頃、書道のお稽古場に通っていたのですが、本来週1回でよかったのに週3回も行っていました。『そんなに来んで良い』と先生に笑われていたほどです。書道を始めた頃は上手だねとか偉いねと褒められることがとにかく嬉しくて、今でも『良い字が書けたね』と母に言われるとすごく嬉しいです。

書道については死ぬまで勉強だと思っています。本当に色々な表現ができるし、たくさん語りたい気持ちもあるけれど、私にとって書道は“大好きなモノ”です。

青柳美扇 -Bisen Aoyagi-
1990年生まれ。フランス、アメリカ、中国をはじめ、世界 10か国以上で書道パフォーマンスを披露。国内では、イベ ント・式典パーティー・商品発表会など多数出演。サッカー天皇杯決勝では、約6万人の観客を前にオープニングアクトを務める。有名狩猟ゲーム「モンスターハンターライズ」の筆文字ロゴや、手塚治虫原作の「どろろ」の題字・ 墨絵を担当。国立競技場貴賓室の巨大屏風作品を手掛ける。書の立体アートにも挑戦し、個展を開催。「伝統×革新」をテーマに、新しい書道の魅力を伝えている。MBS「情熱大陸」に出演。

「書」というコンテンツが持つ、世界発信へのポテンシャル

令和2年、経済産業省が公開した『コンテンツの世界市場・日本市場の概観』というレポートの中に、デジタル市場とフィジカル市場の年平均成長率(CAGR)の記載がある。2019年-2023年の5年間、世界のフィジカル市場の年平均成長率が-0.1%なのに対して、デジタル市場は8.2%と市場は明らかに拡大している。ブロックチェーンの技術を活用した”一点物のデジタルアート(NFTアート)”の隆盛も一つの要因であろう。NFTは自由に移転でき、共通規格に沿ったサービスであれば相互運用が出来たり、インセンティブ設計等の付加機能を付けることも出来たりもするが、アートという側面から見ればもっと本質的な違いがある。  デジタルとフィジカルの違いは−−そもそもデジタルとフィジカルでは、色の規格に違いがある。デジタルアートの色の規格が『光の三原色(RGB)』に対して、RGBのインクを吹き付けて印刷するジークレー版画を除いて、フィジカルアートは主に『色の三原色(CMY)』を使っている。『光の三原色』は全て混ぜると白になり、『色の三原色』は全て混ぜると黒になる。この本質的な色の規格の違いから、デジタルアートでは光の表現が幅広く出来るといえるだろう。

日本特有の文化や芸術への公的支援を表す文化支出額は国民1人あたり922円。対して世界的に見ても文化財保護への助成が際立つフランスや韓国はそれぞれ、フランスが7,079円/1人、韓国が6,705円/1人 となっている。※2021年3月 諸外国における文化政策等の比較調査研究事業報告書より とはいえ、それぞれの国によって政治的・歴史的背景が異なるため、単純に日本の文化支出額が各国に比べて少ないと表現することはあまりに軽率であるが、世界のニーズに合わせた日本文化の発信で、文化の衰退を防ぐことが出来るのではないか。

森鴎外が明治20年代から多用したことで、日本にも広まったとされる『審美眼-aesthetics』という表現がある。”美しさを識別する”などの意味を持つが、日本の美しさの表現方法は世界のそれと一線を画す。例えば、美しいとされる比率。欧米では、モナリザの絵画などで用いられた約5:8の黄金比が最も美しい比率であるといわれるが、日本では新聞の見開き・文庫本・A4のコピー用紙は約5:7の比率で白銀比といわれる。”書”でいえば半紙も日本独特の寸法の紙だ。加えて、とめ・跳ね・払いなど細部の機微に触れられる。西洋の油絵とは違った美しさがある。  日本独自の美しさを、国境を持たないブロックチェーンの仕組みで積極的に越境して発信することは、審美眼を持ち合わせた応援者に恵まれる機会が増えるともいえるだろう。日本が表現する美しさは、世界的に見ればマイノリティだ。Web3.0と表現される大変革を待つ現在のテクノロジーの進歩のように、ある日を境にマジョリティに成り得る−−

Editor-in-Chief Noriaki Yagi