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クローズアップされていない日本の課題- 金融のプロが教える“経済の見方” 第8回

OECDの発表

6月8日(水)、OECD(経済協力開発機構)は加盟する38ヵ国の個人消費の物価上昇率について、2022年+8.5%、2023年+6.0%と予想を発表しました。経済成長率については2022年+3.0%、2023年+2.5%の成長とし、2021年12月の発表値からそれぞれ1.5%、0.4%下方修正しています。

本年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻と、中国のゼロコロナ政策による都市・港湾の封鎖が新たな逆風をもたらしたことを経済成長率の下方修正した主な理由として挙げています。当然これらの点が物価上昇にも影響していると考えられます。

今後のリスクシナリオとしては、①ロシアから欧州へのガス供給停止 ②世界的な商品価格の上昇 ③サプライチェーンの混乱 をあげています。

今回の発表によれば、経済成長が減速し物価が上昇する「スタグフレーション」に世界が突入すると予想していると見て良いのではないでしょうか。

食料価格の上昇

このような発表がある中で、エネルギー価格(原油、天然ガス、石炭)の上昇について先週取りあげていますが、食料についても価格上昇が顕著となってきています。これはウクライナ侵攻と中国ゼロコロナ政策の影響もあると思いますが、食料価格が上昇する状況から自国の食糧確保を優先する「食料保護主義」が台頭し、「食料輸出規制」が多くの国で始まり、食料価格の上昇に滑車をかける形となってきています。

ウクライナはひまわり油の輸出シェアが5割近くあり、小麦も世界第5位の輸出国でした。このウクライナの輸出が減少する状況から、世界のパーム油の約6割を生産するインドネシアが4月から一時禁輸措置を行い、その後解除したものの、5月末からは生産業者に一定割合を国内に供給する義務を課すこととしています。また小麦についても世界第2位の生産国であるインドが小麦の輸出停止を5月中旬から行っています。インドは生産量で世界首位の砂糖についても輸出制限を始めています。

こうした輸出規制の動きはアルゼンチンの牛肉やマレーシアの鶏肉などに広がっており、食料輸出規制を行っている国は20ヵ国となっています。

食料の不足や価格の高騰はエネルギー以上に社会不安の原因になりやすいと考えられ、各国政府は政権への批判や政情不安を抑えるために食料保護主義の姿勢を強めると思われます。

食料自給率

それでは日本の食料自給率はどうなっているのでしょうか? 農林水産省が発表している食糧自給率は、熱量で換算するカロリーベースと金額で換算する生産額ベースがあります。カロリーベースでは1965年に73%でしたが、2020年には37%まで下がっています。生産額ベースでも1965年に86%でしたが2020年は67%でした。現実として日本は食料の約6割を輸入に依存している状況となっています。

具体的に品目で見てみましょう。下記は2020年度の農林水産省が発表した食料自給率になります。

品目カロリーベース生産額ベース品目カロリーベース生産額ベース
98%100%大豆21%47%
野菜76%90%小麦15%19%
魚介類51%49%畜産物16%58%
果実31%65%油脂類3%47%

この表を見ると、100%自給出来ているのはお米ぐらいしかない状況です。

一方、先進各国の自給率は下記になります。(2018年度。日本のみ2020年度 農林水産省)

国名カロリーベース生産額ベース国名カロリーベース生産額ベース
米国132%93%英国65%64%
カナダ266%123%イタリア60%87%
フランス125%83%豪州200%123%
ドイツ86%62%日本37%67%

先進国の中で日本が突出して低いのがわかります。

ウクライナ侵攻により国内でも認識が高まっている日本の地政学リスクが、もし表面化する事があるとエネルギー不足とともに食料不足に陥る可能性があります。

政府としては、2020年3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」で食料自給率目標として2030年にカロリーベース45%、生産額ベース75%を掲げ、食料自給に向けて生産面、消費面でアプローチしているものの、なかなか成果が上がっていない状況です。

政府から「骨太の方針」が発表され、岸田政権の評価が高まっているようですが、食料自給に向けて力を入れていただきたいものです。

Profile ◉倉本 佳光(くらもと よしみつ)
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、山一証券株式会社に入社し金融業界でのキャリアをスタート。
その後メリルリンチ日本証券株式会社、岡三アセットマネジメント株式会社で手腕を発揮。
これまでにリテール及び機関投資家への営業、上場企業の資金調達、IPO、M&Aなどの業務を担当し、現在では「株式会社J-CAM」にて総合的な金融コンサルタントとして活躍している。