月間暗号資産

  • HOME
  • COLUMN
  • 倉本佳光
  • 英国が仕掛けたインフレ改善の大実験−金融のプロが教える“経済の見方” 第23回

英国が仕掛けたインフレ改善の大実験−金融のプロが教える“経済の見方” 第23回

英国の経済対策

9月23日、英国トラス政権は新たな経済対策を発表しました。内容は大規模減税とエネルギー高騰に対するものです。具体的には次のようになります。

【英国トラス政権の経済対策】

1. 大規模減税

2026年度時点で年450億ポンド(約7兆円)

  • 2023年4月実施予定の法人税率引き上げを取りやめ(19%→25%への引き上げ)
  • 2022年4月からの国民保険料1.25%引き上げの撤回
  • 2023年4月からの所得税基本税率1%引き下げと最高税率引き下げ
  • 住宅購入者の印紙税引き下げ

2. エネルギー高騰対策

2022年10月から半年で600億ポンド(約9.3兆円)

  • 家庭向け:光熱費価格に上限を設定し、世帯ごとに半年で400ポンド割引
  • 企業向け:電気・ガスの卸売り価格に上限を設定し、光熱費を想定水準の半分に

混乱する金融市場

このような大規模な対策となりますが、この内容が英国の財政ならびにインフレを大きく悪化させるとして、法定通貨ポンドが急落し、国債利回りが急上昇しました。こうした英国金融市場の混乱がさらに各国の通貨安や債券安へ波及し、世界的な混乱を引き起こそうとしています。

沈静化へ動く英中央銀行

こうした状況を受け、9月28日にイングランド銀行は、残存期間20年超の国債を対象に金額無制限で緊急に買い入れると発表しました。この発表で4.5%まで上昇していた10年国債の利回りは4%程度まで下落しています。

注目される英国の大実験

今回の経済対策は、英国の財政赤字を1,000億ポンド(約16.5兆円)、GDP比で5%程度悪化させると考えられ、伝統的な経済政策からは考えられないものとなっています。

しかし、この大胆かつ非正統的な政策でインフレが鎮まる可能性もないわけではありません。世界経済へ大きな影響を与えると見られるだけに、今後の英国経済の動向から目が離せません。

Profile ◉倉本 佳光(くらもと よしみつ)
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、山一証券株式会社に入社し金融業界でのキャリアをスタート。
その後メリルリンチ日本証券株式会社、岡三アセットマネジメント株式会社で手腕を発揮。
これまでにリテール及び機関投資家への営業、上場企業の資金調達、IPO、M&Aなどの業務を担当し、現在では「株式会社J-CAM」にて総合的な金融コンサルタントとして活躍している。