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日銀・政府による円安対応の効果−金融のプロが教える“経済の見方” 第21回

国内物価上昇の鍵を握る円相場

9月に入りなかなか止まらない円安を受け、鈴木俊一財務大臣のコメントが注目を集めています。8月前半にいったん落ち着いたかに見えたドル円相場は8月中旬から徐々に円安となり、8月26日のパウエル議長のジャクソンホールでの講演からさらに円の先安感が強く台頭していることによります。

鈴木俊一財務大臣のコメント

9月14日鈴木大臣は円安に向けて「こういう状況が継続して続くようなことになれば、市場においてあらゆる手段を排除することなしに、やるべきことをやるということであると思います」と述べています。今までの口先介入だけでなく、本格的な為替介入をも意識したコメントと見られています。

実際、日本銀行は同日に「レートチェック」を実施したと思われます。レートチェックは為替介入実施前の準備として為替の水準をヒヤリングするものです。ただ、ドル円の為替介入を行うには米国の合意も必要となり、高インフレの米国が「ドル売り円買い」の介入に合意するのは難しいと思われます。

押し寄せる輸入インフレの波

しかし日本の置かれた現在の環境は、世界的なエネルギー価格や穀物価格の上昇を受けて輸入インフレの波が押し寄せるものとなっています。

9月1日に発表された帝国データバンクによる食品の値上げ動向調査では、10月が値上げラッシュ第3波となり6,532品目が値上げされます。この調査は上場食品メーカー105社に対して2022年の価格改定計画を調査したもので、値上げ品目は2万を超えます。

全体概要は下表のようになっています。

 加工食品調味料酒類・飲料菓子乳製品
品目数8,6304,6513,8141,295700
値上げ率16%15%15%13%12%
原因①水産品
食品
水産品
砂糖
小麦ジャガイモ
砂糖
海外生産地
生乳高騰
原因②物流
包装資材
包装資材PETボトルなど円安円安
原因③円安円安容器用資材  
主な品目水産缶詰マヨネーズ甲類焼酎キャンディ類溶けるチーズ
 ハム
ソーセージ
だし製品ビール
発泡酒
スナック菓子プロセスチーズ類
 冷凍食品焼肉のたれ炭酸飲料米菓類 
【主な食品価格改定動向】

このように、資源高や円安進行を背景として8月の輸入物価指数(円ベース)の前年比上昇率は48.0%と、比較可能な1981年以降で最大の伸びを記録しています。全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は同2.4%と日本銀行が目標とする水準の2%を4ヵ月連続で上回りました。

今後のドル円相場は

政府が為替介入を行ったとしても一時的な効果に留まると思われるだけに、米国の金融緩和が難しい状況では、やはり円安となっている根本的な要因の金利水準やエネルギーを中心とした貿易赤字などの課題についての方向性を打ち出さない限り円安は止まらないと考えざるを得ません。

榊原元財務官が直近のインタビューでコメントしたように「今年末160円、来年末180円」をも想定し、長期的な円安に対する備えをしておくべきかと思われます。

Profile ◉倉本 佳光(くらもと よしみつ)
慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、山一証券株式会社に入社し金融業界でのキャリアをスタート。
その後メリルリンチ日本証券株式会社、岡三アセットマネジメント株式会社で手腕を発揮。
これまでにリテール及び機関投資家への営業、上場企業の資金調達、IPO、M&Aなどの業務を担当し、現在では「株式会社J-CAM」にて総合的な金融コンサルタントとして活躍している。