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デジタル化を進める「日本一の市役所」の戦略 都城市・池田宜永市長 独占インタビュー

マイナンバーカード普及率日本一を誇る都城市。自治体の常識・殻を打ち破る戦略とは

2022年11月21日(月)発売の月刊暗号資産1月号Vol.46
「Crypto Journey」より

『Crypto Journey』1月号のインタビューは、宮崎県都城市市長の池田宜永氏。都城市のマイナンバーカード普及率は、令和4年8月末時点で、全国平均45%に対し85%という驚異の数字を叩き出す。加えて令和3年度から5年間で100のデジタル関連新規事業の実施を目標にしており、現在60を超える新規事業がスタートしている。デジタル庁のデジタル社会構想会議の市町村代表の構成員でもある都城市の池田市長に、行政分野におけるweb3.0の可能性について独占取材を行った。

Q:デジタル社会を実現する為に、国の会議ではどのような議論を交わしているのでしょうか?

池田宜永氏(以下、池田):私は、令和2年にデジタル改革の基本的考え方や関連法案の整備等の検討のために設置した「デジタル改革関連法案ワーキンググループ」の構成員に選ばれました。このワーキングでは、デジタル社会の司令塔となるデジタル庁のあり方などを議論させていただきました。

また、令和3年からは、今後の我が国のデジタル化を推進する施策の方向性を総合的に検討する会議として、デジタル庁に新たに設置された、「デジタル社会構想会議」の構成員に選ばれています。

ワーキンググループに参加する市町村長は、私のみでしたので、特に自治体の立場から、ご意見を申し上げてきました。例えば、自治体システムの標準化やデジタルデバイド対策、そして持続可能な地方のための場所にとらわれない多様な働き方の確立等について議論を行ってきました。

Q:国と地方で抱える問題や認識の違いはありますか?

池田:国には丁寧に話を聞いていただいていると感じています。しかしながら、構成員の皆様は都市部にお住まいの方が多いため、例えばデジタル人材についても、都市部での不足と地方での不足は、規模やレベルの違いがあります。

また、よく役所のデジタル化が遅れていると言われますが、地方では、中小企業や経営者の高齢化が顕著であることから、行政よりも民間企業の方がデジタル化が遅れているケースが多いとも感じています。

ただし、活力ある日本を創っていくためには、都市部だけではなく地方が輝くことが重要であるとの認識は国・地方ともに一致しており、岸田総理が打ち出しているデジタル田園都市国家構想もこの流れの一環であると考えています。

Q:令和3年度から5年間で100のデジタル新規事業を目標に、現在60を超える新規事業を行なっているとのことですが、特に力を入れたプロジェクトについて教えてください。

池田:マイナンバーカードの活用を進めており、書かない入所が可能な避難所管理システムを構築したほか、本市の強みの一つである、ふるさと納税の税控除のためのワンストップ特例申請について、マイナンバーカードを使って完全オンライン化しています。両者ともに、全国初の取組です。

また、公共施設予約システムとスマートロックを活用した非対面予約システムの実証を行いました。鍵の貸し借りを公共施設以外で行っている場合には、鍵を借りに行く手間が生じていたが、本システムでは暗証番号をメール等で送付し、キーレスで施設を開けることができるため、市民の利便性向上に大きく資するものと考えています。

さらには、企業からの自由な創意工夫に沿った先進的な提案を受けるDXチャレンジプロジェクトという事業もあり、新しい価値を都城発で生み出しています。

Q:これらのプロジェクトの苦労した点と開発秘話があればお聞かせください。

池田:本市ではデジタル化は目的ではなく手段であり、良いデジタル技術は課題から生まれていくものと考えています。そのため、庁内の調査等を通じて課題を元にいかにして、企業と共創していくのかがそれぞれの事業の根底にある精神です。

また、公務員は前例踏襲の傾向が強く、最初の1歩を踏み出すのに躊躇するため、チャレンジをしていく土壌を私自身が率先して創ってきました。私が自ら、デジタルの重要性を発信し続けるとともに、意識してチャレンジを行う姿勢を示し、スピード感を持ってデジタルに取り組んでいます。結果として、前向きでチャレンジ精神溢れる組織に変わってきたと実感しています。

Q:都城市は様々な全国初のプロジェクトを行なっておりますが、これにはどのようなビジョンと狙いがあるのでしょうか。

池田:課題の解決を図るには既存のソリューションでは十分ではない場合が多く、企業との対話から新しい価値を生み出しています。全国初の取組だと実証の意味合いも強く、コスト的にも抑えられるのです。また、本市の希望に沿った開発が可能になるほか、横展開されていくことによって、本市の知名度向上にも繋がります。このほか、職員が成功体験を得ることによって、人財育成にもつながっています。

Q:デジタル化を推進していく中で、行政全体として最優先すべき課題は何ですか?

池田:行政は様々な分野をカバーしているため、優先順位を決めることが難しい面もあります。

例えば、本市では全国に先駆けてデジタル化推進を宣言していますが、3つの柱があり、①市民の幸福を実現するための市民サービスのデジタル化、②業務効率化を志向する自治体経営のデジタル化、③地域全体のデジタル化を目指す地域社会のデジタル化と、総合的にデジタル化を進めることとしています。デジタル化は目的ではなく手段、最終的に「市民の幸福と市の発展」を目指すことが大きな課題であると考えています。

Q:その中で都城市が直面している喫緊の課題は何ですか?

池田:地方では中小企業のDX化がなかなか進んでいません。地方で雇用を生み出したり、地域課題の解決を図ったりするためには、中小企業のDXが必要不可欠であると考えています。

また、本市では「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を進めており、全ての市民にデジタル化の恩恵をお届けしたいと考えています。そのため、高齢者等のデジタル活用支援を積極的に展開する必要があると考えています。

Q:その課題を解決する為にどのようなアプローチをとっているのでしょうか?

池田:本市では10月にスマートシティ推進協議会を設立しました。地方は圧倒的にデジタルに関する情報が少ないことから、協議会を通じて中小企業に情報提供するとともに、中小企業が抱える課題を発掘し、課題解決のためのソリューションとマッチングを行うことも考えています。

加えて、産学官で都城デジタル化推進協議会を設立し、デジタル活用支援の講習会を実施しているほか、商業高校と連携協定を締結し孫世代による高齢者支援を行っている。さらには地域おこし協力隊による中山間地域における支援など、総合的に取組を進めています。

Q:都城市は現在の取り組みの先に、どのような構想を描いていますか?

池田:目指すべきは、「市民の幸福と市の発展」であり、その目的に資するような取組を進めていく必要があります。そのためには、地方都市のモデルとなるような先進的な取組を積み上げ、一つずつ地域課題の解決を図りながら、より豊かな生活を市民に届けていきたいと思っています。

都城市市長
池田宜永(たかひさ

昭和46年4月7日生
宮崎県都城市出身

【学歴】
平成2年3月 宮崎県立都城泉ヶ丘高等学校卒業
平成6年3月 九州大学経済学部経済学科卒業
平成11年3月 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了

【主な経歴】
平成6年4月 大蔵省入省
平成11年7月 大蔵省主税局調査課内国調査係長
平成14年7月 金融庁監督局銀行第一課課長補佐
平成17年4月 外務省在オーストラリア日本国大使館一等書記官
平成19年4月 宮崎県都城市副市長(総括担当)
平成22年7月 財務省主計局主査(農林水産係)
平成24年6月 財務省辞職
平成24年11月 宮崎県都城市長
平成28年11月 宮崎県都城市長(2期目) 
令和2年11月 宮崎県都城市長(3期目) 現在に至る