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リップルのビジョン 吉川絵美氏 独占インタビュー

“価値のインターネット”と『NFT・Web3.0』の密接な関係

2022年9月21日(水)発売の月刊暗号資産11月号 Vol.45より

「あらゆる価値」が瞬時にやりとりされる世界が実現化する。その大きな流れのなかで、NFTの盛り上がりは過程の一つ。ブロックチェーン企業「Peersyst Technology」とコロンビア政府が提携し、XRPレジャーを基盤にした土地管理システムを稼働。気候変動対策に取り組み、炭素クレジットの検証、トークン化、交換機能をXRPレジャー上に構築しているフィンテック企業のXange.comと提携。リップル社は炭素除去活動を加速させ、炭素市場の刷新と規模拡大に貢献するために1億米ドル投資することを発表。その米国リップル社のサンフランシスコ本社にて、事業戦略、ビジネスオペレーション、ジョイントベンチャーのパートナーシップ事業などを担当し、暗号資産業界の最前線に立つ吉川絵美氏に、現在の取り組みや今後の展望について訊いた。

─本日はNFT、Web3.0といった最近特に注目度が高まっているキーワードについて、現在の状況やリップル社の取り組みについてお伺いいたします。NFTについて、昨年からアート・デジタル画像を中心にNFT市場が大きな盛り上がりを見せています。そんなNFT市場について、一過性のブームで終わってしまうのではないかという懸念の声もありますが、吉川さんはどのようにご覧になられていますか。

吉川絵美氏(以下、吉川):先に結論から言ってしまうと、いわゆるNFTブームは単なる一過性のものではありません。長期的に見れば世界中のさまざまなものがトークン化されるという大きな流れがあり、その過程の一つであると思っております。
それを裏付けるデータとして、世界経済フォーラム(WEF)の報告書では2027年までに世界のGDPの10%がトークン化されるという予測がされています。NFTによってこれまで正当に評価されてこなかったデジタルアートの価値が評価されるようになったり、今後世界中のさまざまなものがトークン化され、その価値が可視化されるのは間違いないでしょう。

─さまざまなものがトークン化、NFT化されるという大きな流れについて、リップル社としても注目しているのでしょうか?

吉川:もちろんです。そもそもリップル社が開発に関与しているXRPレジャーというパブリックブロックチェーンが2012年に誕生し、そのときに〝価値のインターネット〟というビジョンを掲げました。世界のありとあらゆる資産、そして価値があるものをトークン化し、それをブロックチェーン上で効率的にやり取りをすることによって、「あらゆる価値が瞬時に世界中でやりとりされる世界を実現化する」ということが元来のビジョンなんです。
ここで言っている〝トークン化〟は、例えば暗号資産、法定通貨のトークン化、ノンファンジブルな(代替不可能な)唯一無二の資産のトークン化であったりといった広範囲なものを指しています。リップル社はそういった長期的なビジョンを持っているので、いわゆるNFTアートのブームというのも、その過程の一つととらえています。今後はアートだけにとどまらず、さまざまなものがトークン化される中で、NFTも引き続き注目を浴びるであろうと考えています。

─さまざまなものが今後トークン化されるとのことですが、特に注目している分野、資産はありますか?

吉川:一つ目が不動産市場です。一つの例として、XRPレジャーを使っているPeersyst Technologyという企業がコロンビア政府と提携を結び、NFTを活用して土地の登記をレコーディングする、という取り組みが発表されました。このように不動産市場は今後トークン化、NFT化が進んでいくと考えられます。 もう一つ注目しているのが、カーボンクレジット市場(温室効果ガスの排出削減効果を取引できるかたちにしたもの)です。ここ数年でカーボンクレジット市場は急激に成長していて、さまざまな企業やプロジェクトがカーボンクレジットのためのサービス・市場を提供しています。しかし、その中には実際には排出量を削減できていないような低品質なプロジェクトもあるのです。そこでNFTを活用して、提供されているカーボンクレジットが固有のものであることや、どういう活動に紐付けられているか、といった情報をトラッキング可能にすることで、より効率的な取引市場が出来上がるのではないかと考えています。 
実際にリップル社は今年5月に炭素市場へ1億米ドル(約129億円)を投資することを発表しました。国連と連携してアフリカのさまざまなCO2削減プロジェクトを、カーボンクレジットを利用して企業が取引可能な仕組みを作っているXange.comらとも提携しています。

─リップル社としてもすでに不動産、カーボンクレジットという分野で取り組みを開始しているのですね。

吉川:そもそもXRPレジャーはマイニングを行わないブロックチェーンであり、主要ブロックチェーンのなかで初めて完全に脱炭素化されたブロックチェーンであると言われています。現在、世界ではサスティナブルという考え方が徐々に広まっていますが、その点においてもXRPレジャーは多くの企業や人々に受け入れられると考えています。 
また、XRPレジャーはこれまで長年、金融機関によって国際送金などに使われてきたという実績があります。10年間一度も停止することなく、コンスタントに3、4秒ごとに決済されているんです。今後NFTを企業が活用するにあたって信頼できるインフラを使いたいと考えたときに、この信頼性は他のブロックチェーンとの大きな差別化ポイントになります。

─次に、ここ数ヶ月話題になっているWeb3.0という言葉についてお伺いします。そもそもこの言葉の定義が曖昧で定まっていないという状況ですが、吉川さんはWeb3.0という概念をどのようなものだと考えていますか?

吉川:Web1.0は情報経済、Web2.0はプラットフォーム経済、Web3.0はトークン経済と言われているのですが、この考え方は〝価値のインターネット〟に通ずるものだと思っています。世界中のさまざまなものがトークン化されて、それがブロックチェーン上で摩擦なく、自由にやり取りできる。そういう基盤の上で、トークンを中心とした経済が回っていくという考え方です。 
それにより、例えば既存の経済活動がより圧倒的に効率化されるというメリットや、これまでお金で捉えられなかった価値がトークン化されることによって新たな経済圏が出来たりといった変化が考えられます。 
もう一つの流れとして、従来は人対人や会社対会社が経済活動の主体でしたが、IoTやAIといった技術によってモノがスマート化していくことで、モノによる経済活動が可能になっていくと思います。そうなったときには、これまでにない多くの経済活動が生まれ、クリプト(暗号資産)はインターネットネイティブなお金として活用されるようになるでしょう。

─トークン、暗号資産、そしてブロックチェーンによって新たな経済活動が生まれ、社会が効率化していくことがWeb3.0であるという捉え方ですね。

吉川:トークンを中心とした経済圏が出来て、そのインフラとして〝価値のインターネット〟が必要になるはずです。そんな未来に、リップル社としてもXRPレジャーとしても幅広く社会の役に立つこと、活用されることを目指しています。