2022.06.08
ソニー生命保険の海外子会社から約170億円を不正送金したとして、詐欺罪などに問われたソニー生命の元社員である石井伶被告の初公判が7日、東京地裁(小林謙介裁判長)で行われた。石井被告は「間違いございません」と述べ、起訴内容を認めた。同日、日本経済新聞などが報じた。
検察側は冒頭陳述で、不正に得た資金を元手に暗号資産(仮想通貨)に投資を行う計画をし、「悠々自適な生活を送ろうとしていた」と指摘。石井被告のコールドウォレットに保管していたビットコインは購入時より評価額が上がっており、30億円の含み益を得ていた。
起訴状によれば、被告は昨年5月19日、上司の指示と偽り英国領バミューダ諸島の子会社「エステー・リインシュアランス」の米国口座から自分の米国銀行口座に約170億円を送金。翌20日に全額をビットコインに交換し、犯罪収益を別口座に隠していたという。
事件は口座残高の減少から発覚し、告訴を受けた警視庁が昨年11月に石井被告を詐欺容疑で逮捕した。逮捕時、石井被告は「ビットコインに換えたら凍結されないと思った」などと話していた。
ビットコインは日米の捜査協力のもと、米連邦捜査局(FBI)が全額押収しており、現在は米連邦裁判所でソニー生命への返還手続きが進められている。
手続きを進めるランディ・S・グロスマン連邦検事代理は、「(我々の責務は)盗まれた資金を被害者に返還することだ。本事件はFBI捜査員と日本の法執行機関が暗号資産の追跡に連携して取り組んだ好例だ。不正に手にした収益を法執行機関から隠蔽するために暗号資産を利用することはできない」と述べている。
一方、石井被告の弁護人は「利益の一部をもらおうとしていたのであり、丸々詐取しようとしていたわけではない」と反論している。
含み益として発生した30億円を巡っては、石井被告とソニー生命どちらに権利があるか未だ判断が下されていない。一部の弁護士は、「ソニー生命から盗んだ170億円については返還義務があるが、利益の30億円に関しては犯罪者である元社員に帰属する可能性もある」とも指摘しており、引き続き裁判の行方が注視される。
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