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米大統領選から探る、暗号資産業界の行末 第三回

大統領で変わる!? 暗号資産(仮想通貨)への対応

依然あるトランプの勝機

9月29日(現地時間)に大統領選挙公開討論会が行われ、メディアは一斉にトランプ大統領バッシングを始めた。討論会直後に行われたCBSニュースの世論調査では約83%のアメリカ人が討論会にネガティブな印象を持ったという。バイデンの発言を遮るかたちで茶々を入れるトランプ大統領の姿が繰り返し報道され、品格のない大統領というメッセージを発し続けた。10月7日(現地時間)には副大統領候補同士の公開討論会が行われ、CNNなどのリベラルメディアの調査ではカマラ・ハリス59%、ペンス副大統領39%でペンス副大統領の劣勢を報じた。最後となる10月22日(現地時間)に開催された討論会は紳士的な政策論争が展開されたが依然、世論調査の数字はトランプ大統領の劣勢という報道が多い。

しかし、筆者はまだトランプ大統領は勝てると思っている。

公開討論会で明らかになったのはバイデン陣営というより民主党としてのアキレス腱だ。公開討論会でバイデンが「グリーン・ニューディールを支持していない」と発言する一方、ハリス氏はグリーン・ニューディールについて何百万人もの雇用を増やすことができると具体的に踏み込み、意見が食い違っているように見えた。実はグリーン・ニューディールについて旗幟を鮮明にできないお家事情が民主党には存在している。

そもそもグリーン・ニューディールとは温室効果ガスの排出ゼロ、再生可能エネルギーの推進など温暖化防止をもたらす経済刺激策で、2007年ごろに注目を集め始めたものだ。2019年にオカシオ・コルテス連邦下院議員といった民主党内でも急進的なリベラル派がこのグリーン・ニューディールを取り上げたことで政策の争点に一気に浮上することとなった。

急進リベラル派のバーニー・サンダースらとの予備選を制したバイデンはこうした急進派の政策を飲み込む必要があり、選挙戦略上仕方なく公約に乗せたという経緯がある(実際、バイデン陣営の選挙公約には「グリーン・ニューディール」の表記はなされていない)。

それもそのはず、グリーン・ニューディールは国内の産業を抑圧する可能性があるものとして、旧来からの民主党支持基盤である労働組合からそっぽを向かれている政策でもあるのだ。この政策を進めれば、ラストベルトといった接戦州で十分な支持を獲得することができないが、カマラ・ハリスら党内の急進リベラル派をまとめるため「グリーン・ニューディール」の中身を積極的に論じなければならないというジレンマに陥っているのだ。

先の討論会でバイデンとハリスの発言が矛盾したのはそうした厳しい民主党内のお家事情による。今後、グリーン・ニューディールを争点化することで民主党内の分裂を加速させることは可能であり、日本では見えてこないトランプ陣営の有利な側面がまだまだ存在する。全米最大の10の労働組合の構成員[1]は1,284万人に上り、その家族を入れれば5,000万人には膨らむだろう。しかも労働組合はラストベルトを始め接戦州の多くで力を持つ。グリーン・ニューディールの例は最たるものだが、総合的に勘案してまだまだトランプ大統領再選の可能性は残されていると考えてよい。

暗号資産(仮想通貨)をどう考えるか

前回、バイデン政権となれば暗号資産(仮想通貨)への風当たりはなお強まるだろうとお伝えした。アメリカでは2020年度の納税申告書には「仮想通貨を売却・送金・交換・取得したか」という質問項目を追加することが検討されている。

2019年度に初めて暗号資産(仮想通貨)に関する質問が追加されていたが、回答も必須でなくそれほど重視されていなかった。2020年度からは暗号資産(仮想通貨)の普及度合いや保有状況を明らかにするためより厳しく実態把握が行われることになりそうだ。規制緩和や減税など経済の自由化路線を進めてきたトランプ政権が新たな規制を作り出すことはあまりないと言えるが、トランプ政権においても暗号資産(仮想通貨)は警戒されていることが窺い知れるだろう。

トランプ大統領は2019年7月12日の自身のTwitterで「私はビットコインや暗号通貨のファンではない。規制されていない暗号通貨は麻薬取引やその他の違法行為を助長する可能性がある…」と述べ暗号資産(仮想通貨)について否定的な見解を述べている。

2019年6月にはFacebookが新たなデジタル通貨「リブラ」の発行計画を公表し、同年10月にはザッカーバーグCEOが下院の金融委員会公聴会に呼ばれ発言したことが話題となった。結局、同社の個人情報管理の問題から規制当局が認可するには至らなかったが、まだ諦めていない。そもそもGAFA企業は伝統的に民主党支持が多い。アマゾンのコミュニケーション責任者ジェイ・カーニー氏は民主党大会でバイデンの応援を行った人物だし、GAFAが本拠地を置く西海岸は民主党の牙城だ。そんな中、リブラの発行計画のためにトランプ陣営に接近を続けてきた例外がザッカーバーグCEOであった。ザッカーバーグCEOはトランプ大統領にとって数少ない権力基盤だった共和党保守派の集会にスポンサードするなどしていたが、その成果は実らなかった。暗号資産(仮想通貨)に対してはトランプ政権でも寛容とは言えない。

一方でバイデンはどうか。

バイデン自身が暗号資産(仮想通貨)について公式にコメントをしたことは確認できていない。しかし、2016年の大統領選挙にバイデンが出馬する可能性を探っていた際、バイデン支持を表明した政治団体の1つはビットコインによる献金を可能にしたことがあり、当時話題となった。バイデン自身は78歳という高齢にも関わらず新規のテクノロジーに対して好意的な人物であるようだ。しかし、今回は急進派リベラルの力を借りなければならず、富裕層の資産と考えられがちな、暗号資産(仮想通貨)に融和的な姿勢を取ることは困難だと思われる。仮にバイデン政権が誕生したとしてもリブラの認可が下りるのは容易ではないだろう。

アメリカも日本と同様、政治家の暗号資産(仮想通貨)に対する理解は不十分だ。リブラの公聴会での議論を聞いていてもデジタル通貨の可能性や中国が同時期進めていたデジタル人民元との競合などへの理解が不足していると言わざるを得ない議論が散見された。

この状況を打破するためには暗号資産(仮想通貨)についての正しい知識をロビーイングしていく必要があるだろう。ロビーイングとは資金や票を武器に政治家を動かすだけではない。時として、政治家を教育し、その政策課題の意味を伝えることもロビーイングの一環だ。暗号資産(仮想通貨)が政治に受け入れられていくためには、政治家自身ではなく外部の圧力が変化するのを待たなければならないだろう。

脚注

[1] The Largest Labor Unions in the US

Profile
文◉佐藤 正幸(さとう まさゆき)
1987年3月31日生まれ。
早稲田大学国際戦略研究所招聘研究員(アメリカ学会/日本アフリカ学会)
早稲田大学商学部卒業後、国際石油開発帝石株式会社に入社。原油営業、カナダ駐在を経て独立。2016年にケニアで開催された第六回アフリカ開発会議外務省公式サイドイベントで事務局長を務める。2018年からアメリカ共和党最大の政治集会CPAC日本開催運営委員会のメンバーとして、アメリカ保守派を多数取材。翻訳協力に「Trump’s Americaその偉大なる復活の真相」(産経広告社)など多数。

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