2023.02.16
2023年は、デジタルコモディティ元年─注目を集めるジパングコイン(ZPG)
「自分の資産は自分で守る」。これが重要視されている中で、今コモディティへの注目度は高まっている。
中でも、「デタルコモディティ」は新たなアセットクラスとして関心が寄せられつつある。
本企画では「デジタルコモディティとは何か」、そしてそれを動かしていくキーマンたちが語る「真意」に迫る。
2023年1月20日(金)発売の月刊暗号資産3月号Vol.47より
なぜコモディティが注目されるのか
そもそもコモディティとは「商品」を指す言葉だ。ここでいう商品は金や銀、プラチナなどの貴金属や、原油や天然ガスなどのエネルギー、そして小麦や大豆などといった穀物が該当する。これらの商品の中でも特に金は安全資産の筆頭としてみられており、金融市場の動きが不安定である時のリスクヘッジ手段として取引されることが多い。そのため、分散投資を行う上では必要不可欠な存在となっている。特に2022年はインフレの影響を受け、金やコモディティの需要が高まった。
では、なぜコモディティの中でも金は特別需要が高く、インフレにも強い資産として見られているのか。それは現存する量が有限であるからだ。
法定通貨を例にあげると、日本円や米ドルなどは中央銀行により発行量を調整できるが、金や原油などのコモディティはどこまでいっても地球上に存在する量の中でしか取引することができない。需要が高まればその希少性も高まっていくため、コモディティはインフレに伴う保有資産価値の目減りなどにも強いとされている。その中でも、金を採掘できる量はほかのコモディティと比べても極めて少ないとされており、古くから価値あるものとして認識されている。
金への投資は難しい?
では誰もが金へ投資を行っているかというと、決してそんなことはないだろう。というのも、金投資には現物取引や先物取引、ETF(上場投資信託)など、さまざまな種類があるが、どれも初心者にとってはなかなか手が伸びにくい商品だといえるのではないだろうか。
また、金の取引をする際には取引手数料がかかるほか、安全に保有するためには保管手数料がかかる。インフレをはじめ有事の際に資産価値を保全する手段としては非常に強いものの、ETFではずっと保有しているだけで手数料が引かれていくというのは、特に初心者にとって高い参入障壁となりうる。
そこで今注目されているのが「デジタルコモディティ」だ。これは金をはじめとしたコモディティをデジタル化したものを指し、新たなアセットクラスとして近年その関心は高まっている。
デジタルコモディティのメリットとしては、取引手数料や保管手数料が非常に安価、もしくは無料であるだけでなく、小口での投資も可能となるため、初心者の参入障壁を大きく下げる効果があるとされている。そしてブロックチェーンを活用した場合には原則24時間365日取引することも可能になることから、取引の利便性向上にも期待が集まる。
そんなデジタルコモディティ領域では、国内で2022年2月に「ジパングコイン(ZPG)」が登場した。ジパングコインは従来の金投資において課題となっていた手数料等のコストを無くし、誰もが保有しやすい環境を整えた新たなアセットとなる。では、そのジパングコインとはいったいどのようなものなのだろうか?
金投資の新たな選択肢となるジパングコイン
ジパングコインは三井物産の100%子会社である三井物産デジタルコモディティーズが発行する暗号資産だ。1ZPGは金を裏付け資産とし、世界の金取引市場で重要な役割を担っている「ロコ・ロンドン金取引」の価格を基準として、金現物1グラムと同価値になるように調整されている。2022年2月に国内暗号資産交換業者であるデジタルアセットマーケッツ(三井物産、日本取引所グループ等が一部出資)で取り扱いが開始され、同年7月にはDMM Bitcoin、そして同年12月にはbitFlyerにおいて取り扱いが開始された。
何かしらの資産の価値に裏付けられた暗号資産を「ステーブルコイン」と称し、米ドルに価値を裏付けられたテザー(USDT)やUSDコイン(USDC)などが代表例としてあげられる。これまでも金に裏付けられたステーブルコインは海外で発行されていたものの、国内産というところではジパングコインの発行以前に前例がなかった。そのことからも、ジパングコインは国内初の「商品担保型ステーブルコイン」であるということができる。
ジパングコインの安全性はどのように担保されているのか
ジパングコインの特徴はわかったものの、はたしてどのように安全性が担保されているのかという点が気になった人も少なくないはずだ。2022年11月に大手暗号資産取引所FTXが破綻した出来事は多くの投資家たちにとって記憶に新しく、信用不安を抱くのは自然な流れともいえる。
ジパングコインは三井物産の100%子会社である三井物産デジタルコモディティーズが発行する暗号資産であり、いわば三井グループが満を持して世に送り出した商品ともいえる。実際、万が一にも三井物産デジタルコモディティーズが事業を廃止、または破綻した場合においても、デジタルアセットマーケッツを通じてジパングコインの時価相当額が支払われる銀行保証が付与されている。これは三井住友銀行が責任を持って返金を行うため、従来の暗号資産・ステーブルコインに比べて企業および個人投資家が安心感を持って取引できる設計となっている。
また、基盤技術としてはbitFlyer Blockchainが開発した「miyabi」を活用している。miyabiは1秒あたり4000件の処理を行うことができるプライベートブロックチェーンで、特にその高いセキュリティ性能から、不動産や会計等の領域でも活用されている。miyabiもまた国産のブロックチェーンであることから、ジパングコインは「メイドインジャパン」にこだわった暗号資産といっていいだろう。
従来の金投資とジパングコインへの投資では何が違う?
デジタルコモディティの利点は先述した通りだが、これはジパングコインにも同様のことがいえる。では、従来の金取引とジパングコインを取引した際にはどのような点で違いがあるのか順に説明していく。
まず、保管という観点でみれば、従来の金は現物で管理を行うため、紛失や盗難のリスクが伴う。また金庫の購入や維持を行い厳重なセキュリティを構築する必要があるため、高いコストもかかる。これに加えて、金の預け入れや引き出しには手数料が発生する場合もあるため、総合的にみれば資産の保全を図るにもかかわらず多額の経費を必要としてしまうのが現状だ。
一方で、ジパングコインは暗号資産であることから、保管にかかるコストは発生しない。また、取引手数料についても発生しないため、経費の観点からみた際には従来とは比べものにならないほど低コストで資産管理を行うことができる。
もちろんジパングコインは暗号資産であるため、ハッキング等により盗難に遭う可能性もゼロではない。しかし、投資家らが購入したジパングコインは全てインターネットから隔離されたコールドウォレットに保管されていることから、盗難リスクを極めて抑えたものといえるだろう。さらに、技術基盤であるmiyabiにより、プライベートチェーンの仕組みを採用しているため、そもそもチェーン外への流出が生じない仕組みとなっている。
金価格と連動する商品との比較としては、金ETFの存在があげられる。金ETFは上場型投資信託として証券口座を持っていれば誰でも購入が可能であることから、馴染みのない投資家にとっても参入障壁の低い商品だ。しかし、金ETFは購入時に投資金額の0.5%から2%ほどの手数料がかかるほか、投資期間中に投資金額の0.4%から1%程度の信託報酬が発生してしまう。実際に、国内の金ETFの過去10年間超の上昇率と、ジパングコインが参照するロコ・ロンドン金市場の同期間の上昇率を比較すると、毎年差し引かれる信託報酬分が累積して金ETFの上昇率の方が10%以上低くなっている。
その点でみれば、ジパングコインは信託報酬のシステムを導入していないことに加え、保有していることにより保有数が減損するといったこともない。そのため、長期保有という観点ではジパングコインへの投資と金ETFでは将来的に手数料で差が出てしまうといえる。
最後に金の先物取引との比較では、初期投資に必要な金額に大きな開きがある。金の先物取引は取引を始めるにあたり、最低でも数万から10万円前後を用意する必要がある。さらに、ポジションの最終決済日を迎える前には期先を乗り換える必要もあり、その都度手数料がかかる。当然、証拠金が足りなければ強制決済されてしまう場合もある。
ジパングコインではデジタルコモディティとしての強みを生かし、100円単位からの小口購入が可能であるほか、ポジションを乗り換えるという手間とそれに伴う手数料も発生しない。まさに初心者にも触れやすく誰もがポートフォリオに組み込みやすい商品であるといえるだろう。
デジタルコモディティが持つ可能性
ここまでジパングコインを例にデジタルコモディティの優位性について触れてきた。
2022年はある種「Web3.0元年」とも表現できるほどWeb3.0というワードが広く浸透した。その点でいえば、デジタルコモディティもブロックチェーンを活用した新たなアセットクラスとして、これからWeb3.0と共に成長していくことが期待される分野だ。
一方で、法律面や信頼性等の透明性、そして導入にかかるコストなど、Web3.0の普及にはまだ課題も多い。特に信頼性という点では、ジパングコインに携わる三井物産デジタルコモディティーズやデジタルアセットマーケッツは「革新的な技術であるブロックチェーンを投機や詐欺的なものと同一視されないようにしていきたい」という思いを持っていると語る。
金の価格自体はこの20年で大きく上昇しており、日本円のレートにおいても6.38倍もの差が生まれている。こうした状況も踏まえ、投機から投資、また資産形成および資産防衛の手段として、資産の10%を金で持つ日本に変えたいとの想いが両社にはあるようだ。
今後は金だけでなく銀やプラチナ、石油やCO2排出権などの新規プロダクトの展開も視野に入れている。将来的には金の現物と交換や、決済手段としてデジタルコモディティを使用できる未来も描いている。
2022年がWeb3.0元年であるならば、2023年はその先にある未来をより具体化した「デジタルコモディティ元年」が訪れる可能性があるといっても過言ではないだろう。