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2022年総括。光と影が交差した暗号資産業界

2022年の暗号資産業界は様々な「光」と「影」が垣間見えた1年であった。

暗号資産業界の外に目を向ければ、2022年は歴史的なインフレや、世界的な利上げ、そしてロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする地政学リスクの上昇など、まさにこの数十年で見ることのなかった出来事が相次いで起こった。

特にFRB(米連邦準備制度委員会)が今年3月から開始した利上げは金融市場を大きく動かした。最大の利上げ幅は0.75%となり、過度な引き締めは景気後退を加速させるとして市場ではリスクオフの流れが強まったと言える。

日本にもこれらの影響は波及し、10月には1990年8月以来、およそ32年ぶりの円安水準となる1ドル=150円台に突入。エネルギー価格の高騰に加え、物価高も顕著に見られたことから、先々の生活に不安を覚えた人も多いのではないだろうか。

暗号資産市場に目を向けると、ビットコインは4万6000ドル(当時約530万円)ほどからスタートしたが、年始早々に明らかになったFRBによる早期利上げ論を受け大幅に下落。その後、3月末に年初来高値となる4万7000ドル(当時約570万円)まで上昇したものの、その後は再びFRBによる利上げ動向等を受け軟調な動きとなり、結果的にこの時の水準まで価格が戻ることはなかった。

今年の暗号資産市場は金融市場全体の動きにも左右されたが、業界における様々な出来事が大きな要因になったと言える。中でも、アルゴリズム型ステーブルコイン・TerraUSD(旧UST)の価格崩壊は今年の暗号資産業界における様々な「終わり」を助長させるきっかけとなった。

今年5月、TerraUSDは米ドルとの乖離が進み、これを受け当時時価総額10位に位置していたLuna Foudation Guardが発行するテラ(LUNA)も売り込まれた。テラとTerraUSDの受給バランスが崩れたことが一連の騒動の原因となったが、これを受けビットコインは3万9000ドル(当時約512万円)からわずか数日で3万ドル(当時約388万円)を下回る事態となっている。

この騒動により各国の規制当局から改めて暗号資産規制の必要性が主張されるようになった。また同時に、暗号資産市場では売り圧力が高まり、いわゆる「暗号資産の冬」と呼ばれる市況の停滞が始まったきっかけにもなった。

市況の悪化は多くの暗号資産関連企業に悪影響を与えた。今年だけで実に多くの企業が破綻に追い込まれている。スリーアローズキャピタル(Three Arrows Capital)やボイジャーデジタル(Voyager Digital)、セルシウス(Celsius)、ブロックファイ(BlockFi)など、多数のユーザーを抱える企業がその中には含まれる。

しかし、今年最も衝撃を与えた出来事といえば、やはり大手暗号資産取引所FTXの破綻だろう。

関連投資会社アラメダ・リサーチ(Alameda Research)の財務状況不安に関するリーク報道が発端となり、同業大手バイナンス(Binance)のCEOであるCZ(Changpeng Zhao)氏がFTXの独自暗号資産・FTXトークン(FTT)を全て売却する方針を示したことで、騒動は加速した。

FTXは多くのユーザーによる出金対応に追われ、ついには資金が底を突く事態に陥ったことから、バイナンスへ助けを求めた。一時はバイナンスがFTXを買収することで基本合意がなされたものの、状況は悪化に一途をたどる。その結果、バイナンスは「すでに手遅れ」との判断をし、FTXの買収を撤回した。それからわずか2日後、FTXは米連邦破産法11条(チャプター11)に基づく申請を行い破綻することとなった。

バイナンスに次ぐ規模を誇っていたFTXの崩壊は、暗号資産業界全体に暗い影を落とし、各国の規制当局によるさらなる規制強化を決定的かつ加速させるものになったと言える。実際、すでに新たな規制を発表した国や、来年早々にも整備する意向を示している国もある。

CEOであるサム・バンクマン・フリード(Sam Bankman Fried)氏は詐欺罪等で逮捕され、FTXの幹部らも顧客資産の不正利用を認め捜査に協力している。2023年も当面はFTXに関する話題が散見されるものとみられ、新たな事実が明るみになった際、業界に与える影響がどれほどのものであるか注目が集まることだろう。

2022年の暗号資産業界はネガティブな出来事が非常に多かった年だが、その反面明るい話題もあった。

特に今年は「Web3.0」というワードがバズワードとなり、世界各国で取り組みが加速度的に進められ始めた年となった。日本においてもWeb3.0推進に向けた動きが加速しており、中でも政府・与党が経済対策等でその本気度を示したのは大きな一歩だ。岸田文雄首相は2022年をスタートアップ創出元年と位置づけており、Web3.0領域への取り組みは日本経済の成長に必要不可欠との判断を下した格好だ。

またこれに伴い、長年の課題となっていた暗号資産税制にも希望に光が見えた。これまで、様々な暗号資産関連企業が国内と比べて税制が優遇されている海外へ拠点を構えてプロジェクトを進めるケースが多く見受けられていた。こうした貴重な人材の流出に歯止めをかけるべく、ついに政府・与党は法人の期末時価評価課税の見直しに踏み込んだのだ。

まだ個人に対する申告分離課税の導入や暗号資産同士の取引による課税撤廃等は盛り込まれていないものの、これまで大きな動きが見えなかった暗号資産税制の見直しに一石を投じたことは間違いない。今後は個人に対する課税の見直しが行われることに大きな注目が寄せられることだろう。さらに、日本は海外と比べて暗号資産規制で先行していることから、税制の見直しを通じてWeb3.0関連ビジネスが加速度的に成長することに期待したい。

また、イーサリアムが今年9月の大型アップデートを経て、コンセンサスアルゴリズムがPoW(プルーフ・オブ・ワーク)からPoS(プルーフ・オブ・ステーク)へと移行したのも大きな出来事だ。

世界的にマイニングで使用される電力量が懸念される中で、イーサリアムはPoSへ移行したことによりその対象から外れることとなった。また、PoS移行という大きな節目を超えたことにより、今後さらに様々な開発が進められていくものとみられる。

2023年3月頃にはステーキング報酬の引き出しや送金遅延および取引手数料の高騰を抑える機能が実装されるアップデート「シャンハイ(Shanghai)」が実施される見込みだ。来年においてもイーサリアムがNFT(非代替性トークン)やDeFi(分散型金融)等で中心的な役割を担う可能性が高く、アップデートの動向などを注視しなければならない。

2022年の暗号資産業界は例年にも増して終わりと始まりがはっきりと見えた年だったのではないだろうか。

大手取引所の破綻による市場再編の動きや、世界全体における未曾有の事態を受け、Web3.0領域等の新たなビジネスに注目する動きなどは、それを象徴するものとも言える。暗号資産市場が盛況であった昨年と、冬を迎えた今年という対比も顕著であった。

2023年はまず規制や業界全体の勢力図が大きく変わる「変化の時間」を一定期間過ごす可能性が考えられる。世界情勢の変化なども踏まえた上で、下半期に差し掛かるあたりの時期から蒔いた種が芽吹くかもしれない。

2023年は長期に渡る業界の成長を見据え、主に環境整備への取り組み、そしてWeb3.0領域の活用が進むことに期待したいところだ。