2023.02.23
【対談】暗号資産取引所bitFlyer 関正明氏×DAMS 西本一也氏・加藤次男氏
取扱銘柄へのこだわりはbitFlyerのブランド
プライオリティを持って進める—
2023年1月20日(金)発売の月刊暗号資産3月号vol.47より
—2023年、デジタルコモディティマーケット元年に位置づけるに至った背景・理由についてお訊かせください。
西本一也氏(以下、西本):商品担保型ステーブルコインの技術は、暗号資産(仮想通貨)とは発行量の点で違いがあります。暗号資産においてはある程度、総発行量が決まっています。しかし、ジパングコイン(ZPG)を初めとする商品担保型ステーブルコインは、必要に応じて流通量が変わるのです。暗号資産の方は価格が可変ですが、ジパングコインはゴールド(金)の価格に連動を目指すという点が少し違う概念なのです。このような新しい概念を構築するには、ブロックチェーンの中でもハイスペックのモノが必要です。
そしてbitFlyer Blockchainの「miyabi」と一緒に、構築できそうであるというのが念頭にありました。システムデザインとの相性が良かったのです。実はこの構想は2年以上前からあり、金融庁に相談させていただきながら、現行の法規制を順守しつつ、2022年2月に本番化を迎えるに至りました。そういう意味ではこれが本当の第一歩なのです。
加藤次男氏(以下、加藤):発行体の三井物産デジタルコモディティーズの立場から話をさせていただくと、今年は実際にさまざまな暗号資産交換業者様に取り扱っていただけたということ。加えて、既にシルバーなど審査中の商品もあれば、2023年後半にかけては原油などのエネルギー系など、複数のコモディティに関する商品をローンチしたいと考えています。そういった意味でも2023年こそ、「デジタルコモディティ元年」と呼べると思っています。
—bitFlyerが取り扱いを決定された理由をお訊かせください。
関正明氏(以下、関):まず当社の取り扱う商品・サービスの幅を広げたいということは常々思っていました。海外の取引所に目を向けると取り扱い銘柄は3桁です。加えて、ステーキングやレンディングなどさまざまなサービスがある。海外と比べてお客様に提供する商品・サービスの幅が狭いところを課題と受け止めていました。その中でコモディティに連動する暗号資産というのは、有力な商品となると思っておりましたので、上場することを計画し現在に至ります。
さらに2022年はビットコインの価格が年初より下落基調で、LUNAショックやFTXの事案で連鎖倒産が起こるなど不安定な市場でした。当社のお客様にとってみると、なかなか投資先がないという状況であったとも思います。そうした時に、ゴールドに連動するジパングコインは有力なツールだと思いますし、当社は積み立ても提供させていただくため、資産を蓄積する有力な手段になると思っています。
—bitFlyer社、デジタルアセットマーケッツ社だからこそ生み出せる強みは何ですか?
西本:日本において、金現物は金融の枠組みではありません。海外では金融関連省庁の管轄ですが、日本では経済産業省の管轄です。ですからオンスというゴールドの単位も、日本はグラムという単位で数えられ、工業品として扱うため消費税もかかります。日本独特のカスタマイズ・ノウハウに合わせた対応が、3社が合同で行うことによって、世界にアピールできるポイントになっていると思います。
加藤:発行体としては、責任がある商品をお客様に届けなきゃいけないという使命があります。国産で安心できるプラットフォームを持つこと、そして、ゴールドをはじめとしたコモディティに触れてこなかった新しい層に訴求していくことができるという点でbitFlyer社は欠かせないと思っています。
関:日本特有のカスタマイズという観点でいえば、海外の事業者に頼んでもなかなか実現できないところは確かにあると思います。その中で三井物産社とデジタルアセットマーケッツ社と組んでデジタルコモディティの取り扱いを開始する、という点は非常に意味があると思います。
また、2022年の暗号資産業界はネガティブなニュースがありましたから、不安を持っていらっしゃる投資家の方々は多いと思います。ジパングコインには、三井物産社の信用力がバックにあること。さらに、ゴールドへの投資は他の暗号資産銘柄とはリスクプロファイルが違うという部分で意味があると思います。
—デジタルコモディティ商品の認知・利用者拡大のために必要であると考えていることは何ですか?
関:今までの当社のお客様の層と違う層に、どのようにアピールしていくかということについては、協力させていただきながら考えていきたいなと思っています。ゴールドを好むお客様は、既存のお客様とは年齢層に違いがあるかもしれないこと。また、金融に長く携わってきた方もいらっしゃるかも知れない。私どもも未知な点が多いので、これから研究してキャンペーン等を積極的に打っていきたいと思っています。
また日本の情勢という点で、一旦ピークを越えましたけれども、まだまだインフレといえる状況です。当社の今のお客様の中には、インフレヘッジということを考えられている方もいらっしゃると思っておりますので、ご希望に添える商品・サービスを提供していきたいなと思っています。
加藤:コモディティへの投資は、大きく二つの目的があると思っています。一つが資産形成で、もう一つはインフレヘッジ。コモディティの中でもそれぞれに向いた商品があって、ゴールドは資産形成に向いたコモディティなのだろうと思っています。資産形成という観点でみれば、bitFlyer社にジパングコインの積み立ても合わせて提供していただけるということは、非常に商品の特性にマッチした方針であると思います。
—デジタルコモディティのメリットを一つ挙げるなら何ですか?
加藤:信託報酬なく保有することができて、現物と違って盗難リスクもなくなるという点が一番大きなメリットだと思います。
関:24時間365日お取引できるところ。まさにブロックチェーンの強みも生かしたところですね。
西本:今後メタバース内で、さまざまなモノが流通するとしたら、外為法などさまざまな課題をクリアし、国内管理とそれ以外のところをスマートコントラクトで綺麗に整理すると、このような世界は実現性が出ます。私はこのような点が暗号資産の分野の最大のメリットだと思います。
—皆さんの中でどの程度の透明性が必要だと思われますか?
関: FTXは顧客資産を流用していたわけですよね。これは日本では規制があり、そもそも起こりません。顧客資産を分別管理し、法定通貨を銀行に信託する決まり。暗号資産については各々の取引所できちんと管理し、日々モニタリングし、ずれていたら直ちに修正しなさい。といった厳しいルールが課せられていて、その状況をきちんと金融庁にも報告することになっていますので、世界でもトップクラスに規制が厳しい国であり、透明性という点では日本が一番進んでいると思います。
そして当社は、EY新日本監査法人の会計監査を受けています。このような点ではFTXとは全く違う状況であると思います。いかに安心安全を投資家・利用者の方々に、お届けするかということは、業界全体で取り組んでいかなければいけないことだと思います。
—皆さんが事業において力を入れている点ないし来年以降、さらに注力される点があればお訊かせください。
関:創業以来、セキュリティ面には力を入れています。当社はこれまでもハッキングの被害はございませんし、その点が当社のブランドだと思っています。ここは継続しなければいけない。そのための人材の確保とか、必要であれば投資を行うというのは、プライオリティを持って対応していきたいと思っています。
西本:まず法令遵守・コンプライアンスというのは絶対です。その点でもbitFlyer社は金融のことをすごくご理解されている人たちで、会社を作られていると認識しております。金融からシステムを取り入れて、構築しているという所で、bitFlyer社が取り扱いをしている銘柄にもこだわりがあると感じています。
流出というような観点においても、アドレスの管理からやっているので、そもそも流出することはありませんが、プライベートチェーンの「miyabi」を選んだのは、流出したときに取り戻せるのかという考えもあるのです。しかし、破壊攻撃の可能性もあるため、破壊耐性を上げるために「miyabi」特有の機能を使いながら、性能を上げていく。ジパングコインだからこそ安心安全が担保できる設計を徹底しています。
関:確かにこれまで上場した銘柄についてはおっしゃった通りで、買っていただく人のためになるのかというところを当社としては考えてきていますし、今後もそうありたいと思っています。
加藤:発行体の立場で言うと、しっかりとした仕組みを公表していくこと。そして、その仕組みに沿った情報を発信していくことだと思っています。具体的には発行残高、その裏付けとなるゴールドの量、また発行残高が銀行保証の内数になっているか、ということなどを四半期ごとに公表するようにしています。
株式会社bitFlyer 代表取締役
関正明
1982年一橋大経卒、日本興業銀行入行。カナダや英ロンドン、国際資金部などを経て08年米国みずほ証券副社長。ドイツ証券や野村ホールディングスに在籍後、19年SBI証券執行役員、20年ビットフライヤーHD執行役員、22年3月から現職。
デジタルアセットマーケッツ 代表取締役
インタートレード 代表取締役社長
西本一也
日本勧業角丸証券(現みずほ証券)に入社、1999年インタートレード設立。同社は2004年東証マザーズ上場、2015年同市場第二部に変更、2022年同スタンダード市場に移行。2018年インタートレードコイン(現デジタルアセットマーケッツ) を設立。証券会社向けフロントシステムを自社開発するシステム開発のエキスパート、ジパングコインプロジェクトの責任者。
デジタルアセットマーケッツ 取締役
三井物産デジタルコモディティーズ 代表取締役社長
三井物産 コーポレートディベロップメント本部 理事
加藤次男
三井物産に入社、米国Mitsui Bussan Commodities(USA) Inc.CEO、英国Mitsui Bussan Commodities Ltd COO、本店商品市場部長を経て、現職。グローバルなコモディティトレーディングに精通した、ジパングコインプロジェクトの責任者。