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世界の暗号資産紀行 スイス編

スイスの暗号資産事情は?

中央ヨーロッパに位置するスイスは、プライベートバンクを通じた銀行業が盛んな国として知られている。
そんな同国では暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術を積極的に採用し、この分野でも世界をリードしようとしている。

山岳地帯に覆われた永世中立国
世界的な金融立国として存在感

スイス連邦(以下、スイス)は、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアなどに囲まれた、中央ヨーロッパに位置する連邦共和制国家だ。首都はベルンで、旧市街全体が世界遺産に登録されている。
他にもチューリッヒ、ジュネーヴ、バーゼルなど、世界的に有名な都市がたくさんある。欧州自由貿易連合(EFTA)に加盟しているが、EUには加盟していない。よって、独自通貨のフランが流通している。

スイスの国土面積は4.1万平方メートルで、九州と同じくらい。人口は842万人(2017年、スイス連邦統計庁)、ゲルマン民族が中心で、外国人は約25%。日本人からすると、マッターホルンに代表されるアルプスの山岳風景をイメージするに違いない。アニメ作品として人気だった「アルプスの少女ハイジ」
は、同国の山村が舞台だ。 国際社会のなかでスイスの特徴を挙げるとすれば、永世中立国であり、国際人道主義発祥の地であるということ。

世界貿易機関(WTO)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など、多くの国際機関が本部を置き、国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)といったスポーツ関連団体の本拠地にも選ばれているのはご存知の通り。永世中立国であるがゆえ、テロや紛争で機能が停滞するリスクが少なく、ホスト国として公平性が保たれることに由来している。

国際的な情報発信力にも優れていて、毎年1月にスイス東部のダボスで開催される世界経済フォーラム年次総会は「ダボス会議」と呼ばれ、世界を代表する政治家や実業家、市民団体や学識経験者など、様々な分野の世界的なリーダーが討議する場として、あまりにも有名だ。

産業にも目を向けよう。同国と言えば世界最大の時計の生産国で、ロレックスやパテック・フィリップといった多くのトップブランドが集結。チューッヒ、ジュネーヴに次ぐ第3の都市であるバーゼルでは年に一度、世界最大の時計・宝飾品の国際見本市が開かれている。その他、産業用機械、製薬、化学など多くの分野で高い技術水準を持ち、貿易も活発。日本には機械、精密機械、化学製品、医薬品など約150社が進出していて、スイスにも商業(卸売業)を中心に、およそ200の日系企業が拠点を置いている。貿易収支・経済収支ともに安定していて、GDP総額は6831億スイスフラン(19年、スイス経済庁)、1人当たGDPも8万637スイスフラン(17年、IMF推計)と高い水準だ。

そして、忘れてならないのは、スイスは中世から銀行業が盛んで、多数の金融機関があるということ。クレディ・スイスやUBSなど、日本に進出している銀行もある。世界的な金融センターのひとつで、最新の世界金融センター
指数では、ベスト10にチューリッヒがランクインしている。

一方、「スイス銀行」と呼ばれるプライベートバンク(個人銀行)は顧客情報
の守秘義務に関して国際的に有名で、刑事事件が起きても原則的に顧客情報を外部に漏らさない。それもあり、マネーロンダリングの中継地として使われることがあり、世界的に批判を集めている。

一部行政サービスの支払いが暗号資産(仮想通貨)でできるように!

そもそも、なぜスイスでプライベートバンクが発達したかというと、同国では古くから傭兵をビジネスとしていたからだ。彼らの収入は報酬だけではなく、派兵先から奪った金品も含まれるため、情報が漏洩しない預け先がおのずと必要になった。地形的にも山々に囲まれているので戦乱から逃避させるのに向いている。1815年にはウィーン会議で永世中立国になったので、諸国間のトラブルにも巻き込まれにくい。こうしたことから、スイスには世界中から大事な資産が集まり、金融業が発達していったのだ。

一方、先述したようにスイス銀行はマネーロンダリングや脱税の手段としてしばしば使われるので、アメリカやEUなどから批判の対象となり、不正口座の閉鎖・守秘義務の一部解除を求める動きも。こうした背景や金融立国としてのプライドから、自由度の高い暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン技術に注目したのは、当然の流れかもしれない。なんと、世界初でブロックチェーン技術を使った身分証明書の発行を始め、16年にはスイス北部のツーク州で公共料金の支払いと住民登録料など一部行政サービスの支払いを暗号資産(仮想通貨)でできるようにした。

世界的な企業が集まり、「クリプトバレー」に成長

そして、スイスの暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術事情を語るうえで重要な位置を占めているのが、先に挙げた「ツーク州」だ。同州は中東のドバイ、東南アジアのシンガポールと並び、暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン関連企業の世界的な中心地のひとつで、「クリプト(暗号の谷)バレー」と称されるほど。

人口約12万人の都市に18年末時点で600ものブロックチェーン関連企業が集まり、企業の評価額は440億ドル(約9.4兆円)に達したという。もともとスイスの法人税の税率は低いが、ツークはスイス内でも低水準で、州全体で企業の誘致・営業活動を支援する政策を推進している。また、スイスは仮想通貨ビジネスの環境が整備されていて、安全な投資ができるよう、ICOに関するガイドラインを国が主導して作成。日本の金融庁にあたるスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)は完全な放任主義ではないが、過度な規制は加えない意思を明言している。昨年にはトークンの機能を「支払い型(純粋な仮想通貨と交換される
トークン)」「効用型(他の電子利用・サービスへ橋渡しの機能を持つ)」
「資産型(不動産持分や配当金など資産価値を有する)」の3つに分類し、ICOも以下の3種類にわけた。

【支払い型ICO】
トークンが支払い機能を持ち交換可能なICOのこと、資金洗浄防止法の対象で、有価証券として扱わない

【効用型ICO】
他の電子利用・サービスへの橋渡しとして機能し、発行時点で利用できる場合は有価証券としてみなさない。ただし、潜在的に支払い機能があれば有価証券の対象

【資産型ICO】
資産型トークンは金融市場に影響する観点から有価証券として扱い、目論見書の提出などが求められる

FINMAは、それぞれのICOがどの分類に当てはまるか個別案件をケースバイケースで検討し、ICOに関する金融関連法の解釈を随時公表する方針。
「ブロックチェーン技術が成功を収めるには、法律上の枠組みの明確化が前提条件」と明らかにした。

このように、詐欺など犯罪に使われることを法的に監視・管理したことから、多くの企業がICOによる資金調達に成功している。ツークに本社を置くテゾス財団は、17年に2億3200万ドル(約250億円)を調達した(ただし、同ICOは資金が還元されないとして集団訴訟に発展)。ブロックチェーンベースのアプリ開発ツールを提供するProxeus(プロキシウス)も18年に自社トークンのXESのICOで2500万ドル(約28億円)を調達するなど、目覚めしい成果を上げている。

ツーク州のクリプトバレーに話を戻そう。同州には暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン関連企業が集まっているが、象徴的なのは、イーサリアムの普及や活動を促進する「イーサリアム財団」の本部が設置されているということ。フィンテック技術の促進、サイバーセキュリティのシステム開発などを推進し、国内大学と協力して教育活動にも注力する非営利組織、「クリプトバレー協会」も政府の支援を受け17年に設立された。こういったことからも、スイス政府が本腰を入れて暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーン技術の開発に取り組む姿勢がわかるというものだ。