2021.02.16
世界の暗号資産紀行 フランス編
フランスの暗号資産事情は?
西ヨーロッパに位置するフランスは、経済や文化に優れた共同制の国家。日本とも良好な関係を結んでいる。
そんな同国では暗号資産(仮想通貨)の実装が進んでいて、あらゆる分野で利活用が始まっている。
ヨーロッパを代表する先進国
幅広い産業で存在感を示す
フランス共和国(以下、フランス)は、西ヨーロッパに位置する共和制国家。人口は6699万人で、首都はパリ。EU加盟国のひとつで、通貨はユーロだ。日本人からすると、フランスはファッションやアート、グルメなど、さまざまな文化の手本となる国で、ある意味、憧れの場所といったところ。毎年多くの観光客が高級ブランドや美術館めぐり、グルメツアーなどを目的にフランスを訪れている。音楽や美術、料理を学ぶためフランスにわたる日本人も多く、在仏日本人は4万2000人にも上る。
経済は内需主導で、緩やかな成長が特徴だ。一方で、慢性的な雇用問題を抱えていて、租税・社会保障負担率は高い。2018年の名目GDPは2兆7750億ドルで、これは世界第6位の規模。EU加盟国でも、ドイツ、イギリスに次いで第3位に位置する。
フランスは経済的にも優れた国で、観光客数は世界1位を堅持、昨年であれば9000万人が同国を訪れている。凱旋門やルーブル美術館など見どころはたくさんで、世界遺産の数はイタリア、中国、スペインに次ぐ。
日本人はあまり知らないだろうが、EU最大の農業国であり、「ヨーロッパのパン籠」といわれるほどだ。国土面積の53%が農業用地で、穀物、根菜、畜産などすべての農業部門において世界の上位10位内の生産高。小麦や大麦、トウモロコシ、ジャガイモの生産が際立ち、テンサイの生産高は世界一。畜産分野では、ブタ、鶏卵、牛乳の生産が多い。
世界に名だたる企業が多いのもフランスならでは。国際石油資本のトタル、保険のアクサ、金融のBNPパリバ、クレディ・アグリコル、小売りのカルフール、自動車のルノー、プジョーなど、挙げればキリがない。
日本との経済関係は良好とされ、三菱自動車を含むルノー・日産アライアンスは、代表的。トヨタはフランス北部のヴァランシエンヌに工場を構え、ANAやJALはエアバスを購入している。三菱重工業と原子力大手のアレバのパートナーシップ、三菱重工業と日本原燃によるニューアレバへの出資、富士通によるデジタル・イノベーションやスタートアップ企業支援のための投資、サントリーによるオランジーナ買収など、自動車、航空機、原子力、鉄鋼、デジタル、食品など、さまざまな分野で日本とフランスは関係が深い。700以上の日本企業がフランスに進出していて、累計8万人超の雇用を創出する規模で、同国にとって日本はアジア最大の対仏投資国になっている。日本銀行の「国際収支統計」によると、2017年度末時点の直接投資残高は、日本からフランスが1兆7480億円、フランスから日本が3兆3978億円だ。ただし、両国の経済力から見ると、それぞれの貿易総額に占めるシェアは低く、日本→仏は約7000億円で輸出中20位、逆は1兆1658億円で輸入中16位となっている。
イギリスのEU離脱後は欧州最大の金融市場に?
現在、イギリスではEU離脱の是非が問われているが、仮にブレグジッドが実施されると、フランスが欧州を代表する金融市場になる可能性も指摘されている。市場インフラ、銀行、保険、アセットマネジメント、フィンテックの観点から、パリはロンドンに次いで、金融活動の中心に必要不可欠な規模を備えていて、国を挙げてイギリスのEU離脱後に、パリをヨーロッパ最大の金融市場にする取り組みを行っていて、税制の安定性と明瞭性の向上は、そのひとつ。法人税率を2025年までに25%に段階的に引き下げ、資産連帯税の改革、投資家向け税制の簡素化、金融取引税をデイトレードまで拡大する計画を廃止すると明言している。
暗号資産(仮想通貨)に対する法整備にいち早く着手しEUの模範に
そんなフランスにおける暗号資産(仮想通貨)事情はどうなっているのか。なんと同国では2015年に暗号資産(仮想通貨)取引所の「Bitit(ビットイット)」が設立されていて、2019年1月時点では、ビットコインやイーサリアム、ライトコイン、リップルといったメジャーなトークンだけではなく、ベーシック・アテンション・トークン、カルダノエイダコイン、ステラ、トロンなど、計23種類の暗号資産(仮想通貨)を購入することが可能だ。
また、多くの暗号資産(仮想通貨)取引所でビットコインが基軸通貨になることで、その他の暗号資産(仮想通貨)価格に影響を及ぼすことを問題視していて、ビットイットではアルトコインの評価がストレートに価格に反映するよう、円や米ドル、ユーロなど計15種類の法定通貨で暗号資産(仮想通貨)を購入できるサービスを実施している。
法整備や規制も進められていて、2017年12月には仏財務大臣がG20グループで、暗号資産(仮想通貨)規制に関する議論の提出を発表。暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン技術は優れているものの、ビットコインの投機リスクを考慮してのことだ。この提案にはEU加盟国も合意している。
高い将来性を期待しているが、起業家・投資家が安心して取り扱うには適切な法整備を整える必要があるというのが政府の方針で、2018年3月には政府で暗号資産(仮想通貨)の規制に関するチームも結成した。同年4月からは暗号資産(仮想通貨)の売却で生じる税率を45%から19%に引き下げ、9月には国内でICO規制法案も可決。フランス金融市場規制当局(AMF)が企業のICO実施に認可を与える権限を持つという内容で、同国の法整備が他のEU加盟国にも適用される。
さまざまな分野で暗号資産(仮想通貨)の扱いが進展!
法整備や規制があるとはいえ、フランスでは政府の暗号資産(仮想通貨)に対する縛りは、それほど厳しくない。そういったことから、あらゆる分野で導入が始まっている。例えば、2016年2月にフランス中央銀行は銀行間によるブロックチェーンの実験を行うことを発表。これにより、顧客の個人情報や企業の入出金履歴が改ざん不可能なうえで保管されるようになり、銀行間の送金が効率的になる。
2017年11月には仏運用会社の「TOBAM」がビットコインを使った投資ファンドの運用を発表。2018年9月には、ユニセフ・フランスがビットコインやイーサリアム、リップルなど計9種類の暗号資産(仮想通貨)での募金に対応し始め、同じタイミングで仏サッカーチームの「パリ・サンジェルマン」が独自の暗号資産(仮想通貨)の発行を発表した。チームや選手の応援に使うのが目的で、観戦や各種イベントに参加する権利が得られるという。ちなみに、高級腕時計メーカーの「HUBLOT(ウブロ)」は、暗号資産(仮想通貨)のみで購入ができ、ビットコインの発行上限枚数の2100万にあわせて、210部品で作った腕時計を、ビットコイン誕生10周年を記念して発売している。
また、仏暗号資産(仮想通貨)ウォレット企業の「ケプラーク」は、2019年1月からたばこ販売店でのビットコインの購入サービスを開始。ユーザーは、50、100、250ユーロ分のクーポンを買うことで、ビットコインに交換できるというものだ。当初は取引速度が遅いことからサービスが中断したが、10月に再開、対象店舗は5200以上にも及ぶそうだ。加えて、2020年までに、スニーカー大手の「フットロッカー」や人気化粧品の「Sephora(セフォラ)」など30社以上の小売業が、2万5000以上の店舗でビットコインによる支払いに対応する予定でフランスでは着実に暗号資産(仮想通貨)が実生活に根付きつつある。なんと、暗号資産(仮想通貨)を持つフランス人は400万人もいるという。
政府は暗号資産(仮想通貨)間の取引を課税対象外にすると発表
勢いは収まりそうにない。2019年4月には、仏大手投資銀行「ソシエテ・ジェネラル・グループ」子会社の「ソシエテ・ジェネラルSFH」が、イーサリアム上で有担保社債をセキュリティトークンとして発行。総額1億ユーロで満期は最大12カ月までの延長オプション付きで5年。親会社のソシエテ・ジェネラルが投資家となる、ホーム・ファイナンシングの一環に利用されている。7月には、パリで8億円相当の不動産物件の所有権がトークン化された。
こういった流れを受けてか、フランスの財務大臣は2019年9月12日、同国内での暗号資産(仮想通貨)間の取引は課税対象外にすると発表。暗号資産(仮想通貨)の取引で発生した収益は、法定通貨などに換金された場合のみ課税対象にする方針で、付加価値税は暗号資産(仮想通貨)でモノやサービスを購入したときに発生する。
一方、フランス中銀副総裁のデニス・ボー氏は、10月15日にロンドンで行われた公的通貨金融機関フォーラムのスピーチで、暗号資産(仮想通貨)に対する世界的な規制の枠組みを求めた。ボー氏は、高コストで面倒な送金システムに依存する金融エコシステムがブロックチェーン技術により改善する可能性があると指摘した一方で、「規制格差を防ぐため、同じ活動・同じリスク・同じルールの原則に基づく全体的な整合性が求められる」と発言。世界的な規制を求めた。
以上のように、暗号資産(仮想通貨)やブロックチェーン技術に対し、フランスは積極的な姿勢を崩さない。幅広い分野で実装も進んでいて、国民にとってより身近な存在になるに違いない。